ふろむだANNEX

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人生は、運よりも実力よりも「勘違いさせる力」で決まっている - 第五章



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この記事は、 『人生は、運よりも実力よりも「勘違いさせる力」できまっている』という本 の最初の5章をWeb化したものです。挿絵イラストは(c) ヤギワタルさん 、キャラアイコンは しらたさん の作です。書籍版と若干異なる部分があります(書籍版はモノクロ)。書籍版の 正誤表はこちら

誰も卑怯と気づかない卑怯なやり方が最強の勝ちパターン



実際、やりたいことがやれるのは、自己資金のある連中だけだよ。僕のような貧乏人は、やりたくないことをやって生きるしかないのさ。

資金が必要なら、クラウドファンディングで、資金を集めればいいじゃないか。

いや、実際、やってみたけど、ぜんぜん資金が集まらなかったぜ。

それは、あなたに「信用」がないからだ。
ここで言う「信用」とは、
「あいつが作るものなら、きっと面白いものになるだろう」
信用して、まだモノが出来上がらないうちから、クラウドファンディングでお金を払うということだ。

「あいつなら、ちゃんと誠実に、モノを作ってくれる」
信用して、支援するってことだ。

「信用」とは、「認められた人柄」と「認められた実力」のことなのだ。

単に実力があっても、人柄がよくても、それだけでは、人々はあなたを支援しない。

どんなに実力があっても、その実力が人々に信用されていなければ、人々はあなたを支援しない。
どんなに人柄がよくても、その人柄が人々に信用されていなければ、人々はあなたを支援しない。
























「ああ、自分も、もっと信用を身につけなければいけない」と思った?
























もし、そう思ったとすれば、
あなたは、騙されやすい人だ。

つまり、さっきのはウソってこと?

そう。成功者の典型的な欺瞞の1つだ。
とくに、成功者が「自分には『信用』があるから、クラウドファンディングでたくさんの資金が集まった」と言ったときは、注意したほうがいい。

「信用」のある人というのは、立派な人だ。尊敬できる人だ。

つまり、その成功者は、
「自分は立派な人間だから、その立派さゆえに、成功したのだ」
と主張しているのだ。

ここで、成功者は、実力も人柄も、ハロー効果で強烈に底上げされていることを思い出そう。



ハロー効果が強烈に効いているから、人々は、「あいつの作ったものは、面白いに違いない」って思うし、「あいつなら、ちゃんとやり遂げる」って思うのだ。

つまり、成功者の場合、実際には、「信用」と呼ばれるもののうち、かなりの部分が、錯覚資産なのだ。



錯覚資産の大きい人は、立派な人なのだろうか? 尊敬できる人なのだろうか?

否。
「錯覚資産」というのは、褒められるようなものでも、誇れるようなものでもない。

それは人の判断を誤らせる、空虚なハリボテだ。

錯覚資産のことを「信用」だと言いつくろう人は、「人の判断を誤らせる、空虚なハリボテ」に「信用」というラベルを貼って、「立派なもの、尊敬に値するもの」に偽装して、人々から尊敬を得ようとしているのだ。

控えめに言って、卑劣だ。

でも、「信用」のすべてが錯覚資産ってわけじゃないだろ?

そのとおり。
それらのなかには、空虚なハリボテどころか、本当に大切なものも、たくさん含まれている。
しかし、それをいいことに、彼らは、そのなかに、こっそり錯覚資産を紛れ込ませてごまかしているのだ。

ウソを隠蔽する、最も効果的な方法は、それを真実の中に紛れ込ませることなのだ。

そんなことを言ったら、「ブランド」だって、同じことだろう?

文脈にもよるが、個人が、「僕にはブランドがあるから……」と言うような場合、「ブランド」のかなりの部分が、錯覚資産だ。

主に錯覚資産による結果であるにもかかわらず、それを「僕にはブランドがあるから……」と言うのは、やはり、欺瞞なのだ。

「ブランド」は「欺瞞」なんかじゃないよ。「ブランド」は、世の中に必要なものだよ。「ブランド」があるからこそ、我々は、粗悪品をつかまされることもなく、商品を安心して買えるんだ。
そうそう。ブランドがないと、どれを選べばいいのかの意思決定が、素早くできないわ。ブランドがなければ、ミソを買うにも、洗剤を買うにも、毎日、一苦労よ。とても生活が成り立たないわ。
そうだ。ブランドの本質は、消費者との「約束」なんだ。この社会は、「約束」で成り立っている。約束がなければ、この社会は崩壊してしまうぞ。

もちろんさ。
「ブランド」は、この社会を維持するのに、必要不可欠な、とても大切なものだ。
しかし、それをいいことに、彼らは、そのなかに、こっそり錯覚資産を紛れ込ませて粉飾決算をやってる。

真実のなかにウソを紛れ込ませることで、巧妙にウソを隠蔽しているのさ。
その点では、「信用」と、まったく構造は同じなんだ。

自分のブランドを持っていない人間のひがみにしか聞こえないな。

そう言われると思ったよ。
ブランドを持っていない人間が、ブランドの負の側面を指摘すると、嫉妬だ、ひがみだ、と中傷されて、言論を封じられてしまうという構造がある。
自分のブランドを持っていない人間には、ブランドの欺瞞を指摘する権利が与えられないんだ。
こういう本を書くことが許されるのは、自分のブランドを持っている側の人間だけなんだ。
だから、わざわざ「はじめに」で予防線を張っておいたのさ。

あれは、このための伏線だったのか。
起業した会社が上場したとか、自分のブログが数百万人に読まれたとか、ただの自慢話にしか聞こえなかったよ。
「僕にはブランドがあるから……」が欺瞞なら、じゃあ、どう言えばいいのさ?

簡単だ。
単に、「うまくいったのは、僕に信用/ブランドがあるからだ」などと言わなければいいだけだ。
「錯覚資産があるから、成功した」なら正直だが、「信用があるから、成功した」だと欺瞞になる。
「これは手品です」と言って、人に手品を見せてお金を稼ぐのは、まっとうなビジネスだ。
しかし、「これは超能力です」と言って、手品を見せてお金を稼ぐのは、詐欺だ。

錯覚資産による成功は、トリックによる成功だ。
それをごまかして、自分が立派な人間であるために成功したかのように言うから、醜悪で卑劣なのだ。



  ***



ようやく準備が整ったので、ここで、はっきり表明しておく。

この本は、筆者の錯覚資産を活用して書いている。
たとえば、この本の「はじめに」で、私が起業した会社が上場したことを書いた。
そのせいで、あなたの直感は、無意識のうちに、この本に説得力を感じているはずだ。
「起業した会社が上場までいくなんて、よっぽど優秀な奴に違いない。そんな人間の言うことなら、きっと本当のことなんだろう」って、無意識のうちに思ったはずだ。
あなたにその自覚はなくても、実際、そうなっているのだ。

ハッキリ言おう。
それは、錯覚にすぎない。
なぜなら、その会社が上場したのは、ほとんどが、運によるものだからだ。

運よく、時代の波に乗れたからだ。
運よく、優秀な人間と一緒に起業することができたからだ。
運よく、優秀な人材を採用することができたからだ。
運よく、優秀な人間が経営陣にジョインしてくれたからだ。
運よく、ヒット商品が出たからだ。

私自身は、たいして優秀な人間ではない。
これは、謙遜ではない。
ただの事実だ。

そもそも、起業した会社が上場したことと、その人の発言内容の正しさに、なんの関係がある?
「この人の起業した会社は上場した。だから、その人の言っていることは正しい」
この「だから」は、まったく論理的ではない。
この前提から、この結論は導けない。
こんなもの、ハロー効果以外の、なにものでもない。

しかし、これが錯覚だとわかっても、私の言っていることが正しいかのように聞こえる感覚は、抜けないはずだ。
それが、思考の錯覚の魔力なのだ。
頭では、「直感が間違っている」ということを理解しても、
直感は、「直感が間違っている」ということを認識できないのだ。
直感は、「実際に正しいこと」ではなく、「直感的に正しいと思える間違ったこと」が、正しいとしか思えないのだ。

だから、錯覚資産は、それが錯覚だとばらしてしまっても、効果が消えないのだ。



  ***



錯覚資産は、卑怯な武器だ。
それをこの地上からなくすことができたら、ずいぶんとフェアで風通しのいい世界になるのではないかと思う。

しかし、この世界では、錯覚資産の使用は、まったくと言っていいほど、取り締まられていない。
大量の錯覚資産を持つ者が、
「ヒャッハー! 汚物は消毒だあ~」
と、錯覚資産を持たざる者たちを蹂躙しても、誰もそれを非難しようとはしない。

なんで?

いくら錯覚資産を使いまくって、卑怯な勝利を手にしても、
ほとんどの人は、それが使われたことに気がつかないからだ。
人類が、長い間、この世界の95%を占めるダークマターとダークエネルギーの存在に気づかなかったように、ほとんどの人は、社会の力学的構造のかなりの部分を占める錯覚資産の存在に、気づかないのだ。

思考の錯覚は、自覚できない。
だから、錯覚資産は、目に見えない武器となる。
「レーダーに映らない」という特性が、ステルス戦闘機を極めて優秀な兵器にしているように、
「自覚できない」という特性が、錯覚資産を、極めて優秀な武器にしているのだ。
錯覚資産は、いわばギュゲスの指輪(そうなりたいときに人から見えない体になれる魔法の指輪。つまり、悪事をしても決して露見しないようになれる魔法の指輪)なのだ。
だから、この世界では、誰もが錯覚資産という武器を駆使して、万人の万人に対する闘争を繰り広げている。

もちろん、自分だけは、できるだけ錯覚資産を使わずに生きていくのもいい。
しかし、それをするなら、人生がうまくいかなくなることを覚悟しなければならない。

正義のヒーロー、デビルマンも、悪魔の力を身につけなければ、悪魔に対抗できなかった。
誰もが錯覚資産という悪魔の力を駆使しているこの世界では、
錯覚資産なしには、自分の人生の活路を切り開くことはできないのだ。






ここまで読んでいただき、ありがとうとざいます。

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